「……お、利乃ちゃん」
「トモくん」
そこにいたのは、トモくんだった。
慎ちゃんは、一緒にいない。
私がいつも通り、ニコっと笑いかけると、トモくんは慌てて拗ねたような顔になった。
「……な、なにしてんだよ」
「……ぶふっ」
頑張って怒っている風を装う彼が面白くて、思わず笑ってしまった。
肩を震わせて笑う私に、トモくんは「なんで笑うんだよ!」とやっぱり恥ずかしそうに怒った。
「だ、だって…っ。ホントはもう、そんなに怒ってないんでしょ?」
「怒ってる!超怒ってるよ!けど利乃ちゃんが、どんだけ不機嫌な顔しても笑ってるからさぁ」
だって、面白いんだもん。
普段怒らないトモくんが、怒るなんて。
……それだけ、麗奈ちゃんのことが好きだったってことだ。
「…ふふ、ごめんね?もう笑わないから、許して」
「………」
ツンとして目を逸らすトモくんに目を細めながら、私は「麗奈ちゃん待ってるの」と答えた。
「ふーん…俺も、慎也が先生に呼ばれたから、待ってる」
「そっかぁ。一緒だね」
「………」
彼は何も答えなかったけど、そのまま私の前の席へ歩いてきた。



