――この世界が『天シン』とは似て非なるものである事なんて、最初から分かってたハズだった。


なんせ、体験したイベントのほとんどが原作通りじゃなかったんだから。


イベント通りにいかなかった要因のほとんどが自分なのは不本意だけど……まぁそれはともかく。


とりあえず、この世界は『天シン』によく似た現実なのだ。


作者の思うようにキャラクターが動く二次元なんかじゃ決してない。


それなのに私は――『天シン』の敬太様に気を取られるあまり、

現実の敬太様に目を向けようとはあまりしてこなかった。


その性格や行動の全てを、『天シン』の敬太様を基本にして解釈していた。


それが、目の前に存在する敬太様に対してとても失礼な行動だったとは気付かずに。



(ごめんなさい、敬太様……)



思わずしょんぼりと肩を落としていると、不意に私の頭に温かいものが乗っかってきた。


驚いて顔を上げれば、そこには柔らかい微笑みを浮かべた敬太様。


ゆっくりと私の頭を撫でる彼は、こちらへ真っ直ぐな視線を向けると静かに口を開く。


「なにヘコんでんだ。まだ俺たち、婚約してから一週間も経ってねぇんだぞ?

相手のこと知らなかったり、誤解したり、先入観引きずってたりしてても仕方ない事だろうが」


「そ、それはそうですが……」


「なにを焦っているかわからねぇけど、そんなに気にすんなって。

ゆっくりお互いのことを知っていけばいい。まだまだ、その……長い付き合いになる予定なんだからな」



だから、あんまり落ち込むな。


微妙にどもりながら、敬太様は私の頭をグシャグシャと乱暴に撫でた。


なすがままの私は、自慢の黒髪ストレートが鳥の巣になるのも厭わず呆然と敬太様を見上げ続ける。


そして、数秒後――



(や、やっぱムリぃぃぃいいいいいっ!!)



――私は、思わず心の中で絶叫した。