「…君花、俺ね」
「うん?」
地面に落ちた枝。
その上にだらんと垂れ下がった朔ちゃんの大きな手。
「…俺、今まで生きてきた中で、好きになった人は1人だけなの」
その大きな手は、そう言いながら、ゆっくりとわたしの手に伸びてきた。
ヒヤッとした手。夏なのに、冷たい。
「…朔ちゃん、この前、好きな人いるって」
触れられている手に戸惑いながらも、真面目な顔をしている朔ちゃんに目を移す。
「…うん、そう。好きな人はいる。俺の好きになった人は、その子だけ」
「…そっか…」
…全然、知らなかった。恋を詳しく知っているように見えた朔ちゃんは、たった1つの恋しか知らないというのだから。
今まで、わたしの恋は何度もバカにされてきた。
本当の恋なんて知らないだろと言われた。
…でも、それは、朔ちゃんがずっと、その人を思い続けているからなのかもしれない。



