むかつくと思っていた。

だけど、そう思うのは、きっと俺が、あいつを他の男とは違うと感じていたからだ。


他の男は、心のどこかで小馬鹿にしていた。


君花を、幸せにできるわけがないって。
俺の存在に、勝てるわけがないって。


でも、あいつは違った。

なぜか。それは、きっと、同じ君花を好きな男として、あいつも本気だということが伝わってきたからだった。


…初めて、家の前で会った時。


君花を愛しそうに見つめるあいつの顔を、俺は今でも覚えてる。



その顔をする男が、まるで自分を見ているようで。
でも、そのもう1人の“自分”は、君花を簡単に手に入れていて。

だから、ムカついたんだ、どうしようもなく。



でも、今日あいつは、それを壊してきた。

消えそうな声で、俺を選んだ時はちゃんと幸せにして欲しいと言った。


…不安なのは、あいつも同じか。


そう思うと、なぜかあの男を近く感じる。



「…あいつも、バカなのか」



俺は、俺自身を情けない、かっこつけの弱い奴だと思っていたけど、そうじゃ、ないんだな。


誰かを本気で好きになれば、だれでも、そうなるのだろう。



人間、本当に愛する人ができた時、カッコ悪く、情けなく、そして、弱くなるのだ。