「冷蔵庫に里芋の煮物入ってたじゃない。君花ママのやつね。よかったね」
「…ああ、まぁ」
…そうだ、それを食べなきゃな。
人間てのは不思議なもので、嫌なことがあると自然とお腹は空かなくなってしまうらしい。
けど、その煮物を見た途端、口の中がじわりと熱くなる。
…まるで、パブロフの犬だ。
キッチンから、お皿を数枚出して、冷蔵庫からお茶と煮物を取り出してテーブルに並べた。
ご飯は母さんが炊いておいてくれたらしく、まだホカホカだった。
「朔太朗」
「…なに」
母さんは、元気に声を張り上げながら、手際よく料理を作っていく。
おそらく、今日の夕飯なのだろう。
その様子を横目で見ながら、俺は母さんの言葉に耳を傾けていた。
「昨日、久しぶりにおばあちゃんから電話あってたよ。携帯にだけど。あんたからも最近連絡ないって、寂しそうだったよ」
「…え。ばあちゃんが?」
「うん、そうそう。しばらく会ってないからねぇ。今年のお盆、行くつもりだけど」
「…」
…俺の、唯一のおばあちゃん。母方のだ。
小さい頃から、母親と喧嘩したり、寂しくなったりした時には、よくそこに逃げていた。
ここからあまり遠いところじゃなかったけど、まぁ駅ひと駅ふた駅くらいはあるところだ。
小さい頃は、きっと必死だったから、そのくらいの距離でも行っていたのかな。
…今考えると、恐ろしいけど。



