ビター・オア・ミルキー



…ある日、彼女の口から、また新しい名前が出た。


「あのね、飛呂くんがね」


……“ヒロ”


どうやら、新しいクラスになってから、知り合った男のようだ。

同じ学級委員で、大量の仕事を任され、それをいつも2人でなんとか頑張っているらしいけど。


…また、君花のことだから簡単に好きになるんだろうな。


そう、最初から分かっていた。

案の定、彼女はすぐにそのヒロってやつを好きになったし、しかも分かり易すぎた。


…ただ。



「…飛呂くん………」



そのヒロってやつと、実際に向き合ってるあいつの顔を見て、俺はようやく悟ったんだ。


…君花は、本当に、心から、あいつのことが好きなんだと。


なぜ分かるか。そんなの知らない。
けど、18年隣で見てきたんだ。表情の変化くらいは簡単に分かる。

あの男の名前を呼ぶ時の君花の顔は、いつも真っ赤で、下を向いていて、いつもはじけているあいつが、なぜかしおらしくなっていたから。


…その時、俺は生まれて初めて“焦った”のかもしれない。


…もしかしたら、君花の気持ちは俺の方に向かなくなるかもしれないと。


君花に対するあいつの気持ちも、すぐに分かった。

あれは一目惚れに近い。
同じだから分かる。かなり君花のことを想ってる。


このままでは、本当にあの2人は付き合って、そのまま君花はあの男のものになる。


…それも、分かっていた。