♦︎♢♦︎


潮田君花と出会ったのはいつだろう。

俺はきっとその運命の日、まだ自分が何者なのかも分からないくらい小さくて、自分でも歩けない、人間として不完全な状態だった。


それから数年たって、やっと、潮田君花の存在というものを認識した。


「さくちゃん、きみかね、」


そうやって話す女の子。
俺の後ろを付いてくる女の子。

それは物心ついた時からずっと続いてきた。



…じゃあ、それが変わったと気づいたのはいつからだろう。


「朔ちゃん、朔ちゃん」


彼女の笑顔に、支えられてると自覚したのはいつだろう。


…それも、遠い昔のことだ。というか、はじまりもあったのかさえ疑わしい。

俺にとって、君花は、君花という人間でしかない。

それはまるで花のようで、宝物のようで、そしてたまに、ひどく壊したくなるものだった。


近くにあったおもちゃのように、紙のように、時々、ひどく傷つけたくなった。


いつも後ろを付いてくる君花。
とてもかわいい。大切にしたい。

だけど、それを嫌だと感じたのは、いつからだっただろうか。



「朔ちゃん、わたしね、彼氏ができた…!」


…あの時か?

いや、ちがう。あの時はもう、そんな感情は当たり前のように抱いていた。

ただ、その時は、傷つけたいと思わなかった。

あいつに好きな人という、特別な存在ができたというのに、なんとも思わなかった。


ある日、初めてのキスをしたと報告してきた。

…あの時か?


いや、それもちがう。その時も俺は、特別なんとも思わなかった気がする。

じゃあ、なんでだ。

君花のことは、誰にも触れさせたくない宝物のようだと、今まで感じてきていたのに。