「…俺も…、お前のこと好きだよ。っけど…」
「…飛呂くん…?」
飛呂くんは、綺麗に並んだ前歯で、自分の下唇を力強く噛んでいた。
のめり込むように入っている口唇が、痛そうで。
でも、そうしておかないと、飛呂くんは、なんだかくるしそうで。
「…けど、あいつも、お前のこと大切なんだよ。俺だけじゃねぇの、おまえのこと、好きなのは…」
「…え」
…飛呂くんが、小さく呟くものだから、最後はなんて言っているのかよく分からなくて。
それでも聞き返そうとしたら、もう一度くちびるを塞がれた。
「…ヒヨコ、よく聞け」
「んっ…」
「…こうやって触れたいと思うのは、お前のこと、嫌いだからじゃねぇよ。すごく好きだから、こうしたくなんの。わかる?」
「…っ」
大きな手で、わたしの顔を包んだ飛呂くんは、荒々しく何度も何度もわたしをせめる。
それにクラクラと意識が遠のいていきそうになりながらも、必死で飛呂くんにつかまっていた。
「…嫌いだからじゃないんだよ。あいつは、お前のこと大事に思ってる。だから…」
「…」
「だから、一回ちゃんと、話してこい」
はあ…と、大きく息を吐き出すと、飛呂くんはまたわたしをじっと見た。
「…飛呂くん…」
飛呂くんでも…こんなこと、するんだ。
でもそれは、わたしが嫌いとかじゃなくて。
…好きだから、することもある。
「…あいつの話、ちゃんと聞いてこい。そんで、たくさん考えて。心の中から、話して、ヒヨコとあいつが納得するまで考えて、それで…」
飛呂くんは、そのままギュッと、わたしを抱きしめる。
「…それで、全部終わって、それでも俺がいいって思ったなら、また、こうやって俺のとこに帰ってきて…」
「……………!」
…今まで
大きいなあって、下から見上げていた飛呂くんの背中。
今も、わたしを優しく力強く包んでいるけれど、今日はなんだか、力なく震えていた。
でも、それを誤魔化すように、見ないふりをするように、わたしを抱きしめる腕に力を入れている。



