キミが泣くまで、そばにいる



「だって、真辺さんは微笑み王子の忠犬でしょ?」

「へ……?」

「犬がライバルになるわけないし」

「そうそう、真辺さんいつもコキ使われててカワイソウだよね(笑)」

 くすくす笑われて肩の力が抜けた。

 髪型や制服の着こなしやメイク。各々のクラスでも華やかなグループに所属しているであろう彼女たちを眺めて、私はひとり静かに納得する。

 なるほど。彼女たちにとって、私の存在は人間の女ではなくあくまで『犬』なのだ。

 私がどんなにイケメントップ5の周囲をうろつこうとも、犬と人間のあいだに恋的な何かなんて生まれるはずはない。

 そう、彼女たちは思っている。
 だから、『近づくな』と脅しつける理由もないと。

「うーむ」

 嬉しいような悲しいような……。

 複雑な気分になりつつ、ひとまず恐い呼び出しではなかったことにほっとする。

「わかった。渡してみるよ」

 私が言うと、彼女たちはぱっと顔を輝かせた。

「ありがとー! よろしくね」

 嬉しそうに手を振って、取り巻きの女子たちは廊下を戻っていった。