キミが泣くまで、そばにいる



「違う!」

 放った声が辺りに響く。それでも構わず、私は目の前の男を睨みつけた。

「私はそんなんじゃない! 私は本気だもん! 本気で先生のこと――」

 その瞬間、息を継げなくなる。アカツキが私の口を右手で押さえ、「しっ」と左手の人差し指を自分の唇に当てた。

「声が高いよ、知紗」

 顔を覗き込まれるように言われ、ぐっと身体がこわばる。

 たしかに教師が行き来する廊下で「先生のことが好き」なんて叫んだら、騒ぎになってしまう。

 私から手を離すと彼は「ふうん」と面白そうに唇を持ち上げた。

「じゃあ、知紗は本気なんだ?」

 勝ち誇った顔を見て、はじめて気が付く。

 しまった。
 これまでどうにか曖昧にしてきたのに、今の発言ではっきりと先生との交際を認めたことになるじゃないか。

 血の気が引いた瞬間、

「本気なら、なおさら……やめたほうがいいよ」

 低いつぶやきに目を上げると、アカツキは笑っていなかった。