キミが泣くまで、そばにいる



「あれ? 今そこに派手な頭の奴がひとりいたんだが」

 誰もいない廊下を見て橋田先生が首をひねる。
 その言葉に私はハッとした。急いで足元のカバンを拾い上げる。

「あの、佐久田先生、私はこれで」

「ああ、うん」

 きょとんとしている橋田先生から逃れるように、私は準備室を後にした。


 廊下に人影はない。光沢のある白い床が一本道みたいに奥まで続いている。

 足を踏み出すと、きゅっきゅっと、ネズミの悲鳴みたいな音がした。静まり返った通路で小走りな自分の足音だけが耳に貼りつく。

 階段を下りようと角を曲がったところで、壁にもたれている人影に気づき、私は足を止めた。


「何……してるの?」

 橋田先生の『派手な頭の奴』という言葉で思い出された顔が、そっくりそのまま笑みを浮かべている。


「先に帰ったんじゃなかったの? アカツキ」