キミが泣くまで、そばにいる



 心臓が跳ね上がった。
 とっさに掴んでいた白衣を離す。

 おそるおそる振り返ると、準備室のドアが見えた。

 扉は閉じたままで、そこには誰もいない。

「え……?」

 不思議に思っていると、扉の向こう側から同じ声が聞こえた。

「そんなとこで突っ立ってないで、用があるなら中に――」

 ガラッと扉を開けたのは、熊みたいな大きな体に白衣をひっかけた男の人だった。

 名前は知らないけれど見たことがある。たしか2、3年生の数学を受け持っている数学講師だ。

 のそりと準備室に入ってきたその人は、私と先生を見て太い眉を持ち上げた。

「あれ、佐久田先生。ああ、先客がいたのか」

「橋田先生、おつかれさまです。先客、ですか?」

 佐久田先生が聞き返すと、橋田先生は大きな体をそらすように私を見た。

「生徒からの質問を受けていたんでしょう? 外で男子生徒が順番待ちしてましたよ」

「男子生徒?」

 驚いた私は先生と同じタイミングで扉に目を向ける。