筋張った手は、私の頬にそっと触れた。
「……知紗が泣いてんじゃん」
目を上げると、アカツキの整った顔があった。それを見て、涙が溢れる。
「まだ、笑う……」
引き寄せられ、広い胸に閉じ込められた。
ぎゅっと抱きしめられる。
アカツキのシャツに顔が押し付けられ、とくとくと、心臓の音が聞こえた。
どっちの音だろうと、考える。
落ち着く音だ。
波たった感情を、優しく包んでくれるような。
狭くて薄暗い路地。
静かだった。
アカツキとふたりで、深い海の底にいるみたい。
国道沿いの喧騒が、遠い。
「母親に――」
私を抱きしめる手に力がこめられ、くぐもった声が聞こえた。
「病気が見つかったとき」
彼の背中に、そっと手を回す。
ちゃんと聞いてるよと、合図するように。


