* * *
「……知紗」
「うん?」
「ここ、男子トイレだけど」
びきん、と固まる私を見てくつくつ笑い、アカツキはひとりでドアをくぐっていく。
危ないところだった……。
期末テスト最終日。
なるべくアカツキの表情を見ていようと、ここ数日くっついて回っていたからか、ダイチくんに笑われた。
「忠犬知紗ちゃん、すっかり躾されてんなぁ」
テストが終了し、全身から開放感を溢れさせた生徒たちが、廊下にひしめいている。
一様に笑顔で、帰りにどこに寄っていこうかとか、カラオケに行こうとか、それぞれ放課後の予定を話しながら昇降口に向かっていた。
「じゃあ俺行くね。ばいばい知紗ちゃん」
180センチを越える巨体が、流れとは反対方向に足を向け、私はとっさに呼びかける。
「え、ダイチくん、行かないの? 今日は期末お疲れ会ってセイが」
「今日から部活あるから、終わったら顔出すよ」
そう答えると、近くにいたバスケ部員と肩を小づきあいながら歩いて行く。


