「まあ、いろいろ言われるけど、無視」
階段を下りながら、私はほっと胸をなでおろす。
今、となりを歩いているアカツキは、素だ。
教室や学食にいたときとは、表情が全然ちがう。
隙間が空いていた戸がぴたりと閉じられ、室内の空気が安定したみたいに、一緒にいて安心できる。
「セイの場合は教師に何言われてもスルーだし。家が家だから、教師陣も強く言えないみたいだけど」
嬉しそうに話をする彼は、いつもよりほんの少し幼い。
同じ人間が見せる笑顔に、こんなに種類があるとは思わなかった。
今の穏やかな顔と、セイたちとふざけあってるときの楽しそうな顔と、取り巻きやファンに見せる微笑みと、自宅で家族を前にしてるときの笑顔。
器用だ。私だったら、そんなに表情の使い分けなんてできない。
それとも、無意識なのかな。
いろんな場面で、笑みの種類が変わるのは――
「どうして?」
言葉がこぼれて、あわてて口を塞いだ。


