キミが泣くまで、そばにいる



 だって、先生の夢は高校の先生になることなのだ。

 非常勤講師として働きながら、教員採用試験を目指して勉強してるんだって、教えてくれた。

 夢や目標に向かって頑張ってる先生を、すごいと思ったし、見習いたいと思ったし、誇らしくもあった。

 学校でしか会えないことも、先生の勉強の邪魔をしちゃいけないって思ったから――

「ごめん知紗」

 噛み締めるような口調だった。
 実際、先生は下唇を噛んでいた。色が変わるくらい、強く。

 心臓が騒いでる。

 嵐を予感して吠える犬みたいに、獣めいた第6感が私の中であばれまわる。

 先生の言葉を、聞いてはいけない――


「結婚、するんだ」


 教科書を音読しているみたいだ。

 声は声のまま、ただの音として頭を素通りする。

「教師は諦めて、彼女の実家の酒造所を継ぐんだ」

「意味が、よく」

 わからない。

 先生、何を言ってるの?