先生の身体がびくりと揺れた。
歩道の向こうから、麦わら帽子をかぶった女の人が歩いてくる。
「あ、生徒さん?」
細くて小さな女の人だった。
一見すると私と同じ年くらいに見えるけど、服装の雰囲気としゃべり方で落ち着いた年上の女性だとわかる。
私を見る視線も柔らかい。
控え目で、とても優しそうな感じの人だ。
誰……?
今、『圭くん』て。
先生のこと、名前で呼んだ……?
「えっと」
彼女に向かって、先生は困ったように頭を掻く。すると、女の人は慌てたように先生に向き直った。
「あ、もしかして生徒さんと思い出の写真とか? 圭くん最後の体育祭だもんね。いろいろ残したいよね。あ、私、先に向こう行ってるね」
何かを飲み込んだような、どことなく不自然な笑みを残して彼女が去っていく。
その後ろ姿を見送って、先生は私を振り返った。そこに、いつもの笑顔は見当たらない。
「先生、最後の体育祭って……?」
「知紗……大事な、話がある」


