キミが泣くまで、そばにいる





 自動販売機が吐きだしたピンク色の缶を取り出す。

 プルトップを開けると、甘い桃の香りがする。一気に半分ほど飲んで、ようやく人心地がついた。

 マイクの放送は途切れ、静まり返っていた校舎のあちこちに、笑い声やざわめきや、日常の音が戻っている。

 正午過ぎ。午前のメイン競技であるリレーが終わって、昼休憩に突入していた。

「早く戻んなきゃ」

 さすがのレミも、イケメントップ5のなかに置き去りにされたら不安だろう。

 きびすを返すと、中庭の向こうに見覚えのある背中が見えた。

「先生!」

 駆け寄って背中を叩くと、振り返った目が真ん丸になった。

 息をのんだように「知紗……」とつぶやく。

「先生、あのね、私リレーで一番取ったんだよ!」

「ああ……うん、すごいね」

 のけぞっていた先生の身体から力が抜けた。
 男の人にしては狭い肩をわずかに張って、先生はどこか緊張しているように見える。

 いつもの優しい笑みがこわばっているような気がする。

「先生……?」

「圭くん」