あの頃だけじゃなくて、今でも同じだ。
私はいつも、不器用にまっすぐ、走ることしかできない。
呼吸を刻みながら、トラックを駆ける。
流れていく視界。
コースの外で生徒たちが歓声を送っているけど、まったく耳に入らなかった。
土を蹴る感触と前を走る選手に、すべての意識が集中する。
それでも一瞬、声が聞こえた。
「知紗!」
ゴールテープの向こう側に、派手な色の頭が見える。
あの人、ほんとに目立つな。
アスファルトにぽつんと咲くタンポポみたいに、太陽の光を吸い込んで、ゴール先で輝いてる。
ふいに歓声が沸いて、ピストルの音が2回、響き渡った。
「はあっ、はあっ」
体を曲げ、足りない酸素を補う。
全身が心臓になったみたいにバクバク鳴ってる。
息が、苦しい。


