…………あー。
すみません、あたしの聞き間違いでしょうか?
いまこの人、自分のこと「ナポレオン」って言ったよね。
ナポレオンって、
あのアルプスの山に向かって、
白馬に乗ってLet’s go!!してる人だよね。
いまにも落馬しそうな肖像画の人だよね。
え?
で?
自分がその“ナポレオン”と?
「…………ええええーっ⁉」
「うるさい女だな」
自称・ナポレオンの御堂さんは、不遜に腕を組んであたしを見下ろす。
うるさい、と言うが、むしろ騒いで当然ではないだろうか。
……いや、もしかすると、単なる厨二病なのかもしれない。
そんな可能性を胸に秘め、念の為に聞いてみる。
「え、その、どゆこと……?」
「我が輩は日本人の御堂暁として生まれてきたが、実はかの軍人・ナポレオンの生まれ変わりなのだ」
「はあ。
そういうことって、率直にいうものですかね」
「お前、信じておらぬな」
「そりゃ、もちろん」
そんな現実味のないことを言われて、素直に信じろと言う方がどうかしている。
「仮に生まれ変わりだとして……ナポレオン本人ではないよね?」
「我が輩は確かに、御堂暁という名の日本人男児だ。
だが、我が輩は御堂暁としての記憶などない。
ナポレオンとしてフランス激動の時代を生きてきた記憶しかないのだ」
「御堂暁として生まれた時、から?」
「いや、我が輩が死した後、目が覚めた時には、白い服をまとった男と女に囲まれて、妙な建物のなかで当分を過ごした」
そんな抽象的な言葉で言われたって、彼がなぜナポレオンなのかということは理解できない。
ざっくりと全体を説明すると……御堂暁、本名ナポレオンの話は以下のようになる。


