ナポレオンは鼻を高くする。
51歳とは思えないほど(まあ外見は19歳なのだが)いたいけな表情で。
「ーーーおっけ。
んじゃ、いきます」
「よっ、待ってましたイケメンボイス」
ナポレオンはやたらイケメンボイスを引きずってる。
こうしてるとナポレオンはかなり現代人っぽい。
「なかなかハードロックな失恋ソングを選んだな」
「あたし、声低いからさ」
「さすがはイケメンボイスだな」
曲が映し出されたボードを眺めつつ、ナポレオンが感心したようにいう。
そして何度も言うけど、あたしは声が低いだけでイケメンボイスなわけではない。
「これ男の歌だし、あんたも歌う?」
あたしがもう片方のマイクを渡すと、ナポレオンは「うむ」と快くうなづいた。
「デュエットというわけだな。
喜んで受けようではないか」
ナポレオンはニッと歯を出して笑うと、マイクを握る。
誰かとこんな風に騒いだのは久しぶりだ。
受験生の頃なんて、もう必死こいて勉強するあまり、ぜんぜん友達と遊べなかったし。
ここらへんにも、同級生は誰も住んでないから。
今日は言葉に甘えて、思い切り大騒ぎしますか。
曲が流れ出し、ナポレオンは息を吸って口を開けた。


