隣の部屋のナポレオンー学生・春verー





「……悲しいか?」


ナポレオンはそう、あたしに問いかけてきた。


「……遊び相手、なんて思われたことなかったし、告白も恋愛も初だったから、ショックかもね」


あたしは思ったままのことを口にする。



するとその時、ナポレオンがあたしの顎を軽く掴み、くいと持ち上げてきた。

冷たい指が首筋に触れて、思わず「うひっ」と声が上がる。


「な、なに……?」


あたしを上に向かせたまま、真摯な目になって黙るナポレオンに、おそるおそる訊いてみる。

すると。

ナポレオンはパッチリとあたしにウインクした。


「いまから暇か?」

「ひま、だけど」


今日はバイトもないし、帰って鋼太郎と戯れた後に勉強する以外は何もないから、暇と言っちゃ、暇だ。

でも、それ訊いてどうすんだろ?



ーーーグイッ……


「わ」


急に手を引かれて、あたしは思わず前によろめく。

なにすんの?

そう言おうとしたあたしに、ナポレオンは道路の先をビシリと指差した。



「Andiamo KARAOKE!」


へ?



「な、なんて?」

「ゆくぞ、緋奈子よ」



ゆくって、どこへ?

訳のわからない言葉を口走ったナポレオンは、一方的にあたしの腕を引っ張り、前に行進して行く。

あたしはされるがままに引きずられる。

ナポレオン(身体は御堂暁だけど)の腕は細い。

けど思いのほか力強かった。


ってか、ほんとにどこ連れてくつもり⁉


「ねえナポレオン、どこ行くのよ」

「おけだ」

「おけ?」

「平日は1時間20円、ミネラルウォーターを頼めばいちばん格安だ」