隣の部屋のナポレオンー学生・春verー







大股で10分ほど西に歩くと、ショッピングモールやらスーパーやらが密集する小規模な街に出た。


「ねえ。ねえナポレオンってば!」


そこで、あたしはナポレオンの手を振り払った。


「なんだ」

「なんで手つないでんのよ」

「お前を強制連行するための手段だ」



ナポレオンは恬とした顔で言うと、そこで足を止めてあたしに向き直る。


強制連行って、なんか悪いことでもしたみたいだ。



「そ、それと……さっきの“あれ”なに?」

「あれ?」


ナポレオンは間の抜けた声を出して首を捻る。


「ーーーああ、さっきのことか」


ナポレオンは不敵な表情になると、傲岸不遜に両脇へ手を当てた。



「名演だったろう?
我が輩が色男だったのも幸いしたな」



ちょ。

この人、自分で自分のこと“色男”とか言っちゃった。

まあ確かに、普通よりは綺麗だけど。



「あれだけしておけば、もう“あの男”もお前を狙ったりはせんだろう」


ナポレオンはそんなことを言ってる。

あれ、でもそれって。


「助けてくれた、の?」


訊いてみた。

ナポレオンはしばらく黙っていた。

けれどそれからボソリと、「復讐だ」とぼやいた。


「あの男は、せっかく我が輩がこしらえた戦略をものの見事に崩した上、表面上は緋奈子に告白するつもりだったのだぞ?

つまりは、我が輩がなにかする前に、既に緋奈子に告白する気があったということだ。

けしからん。

彼奴は我が輩の計画を台無しにし、その出端をくじきおった」



……えっと、それ、つまり自分の計画通りにならなかったのを、逆恨みしてるってこと?

自分の計画であたしと結びつけようとしてたのに、ハナからそのつもりだったのが、気に食わなかった、ってことだよね?


「で、あのような行動に出たと……」

「そういうことだ。


ーーーまあ、次はもっと良いのを探すことだな。
あんな男とお前では、ある意味、釣り合わん」



ナポレオンは言いたい放題に愚痴ると、あたしの頭に手を乗せて言った。

あたかも、慰めるように。




「…………ありがと」


「別にお前を褒めたわけではないぞ」



ナポレオンは素っ気ないことを言う。

でも、おかげでちょっと立ち直れそうかも。

さっきまでは、嫌いになった後でも、先輩の表情とかにキュンとしてたし。

まだ気があったみたいだから。