隣の部屋のナポレオンー学生・春verー







ずしん、ずしん、ずしん。


放課後、怪獣のように地を踏みしめ、あたしはゆっくりとした足取りで西門に向かう。

西門にはまだ先輩はいない。

でも、きっと来る。

あたしは再度拳を握りしめる。

絶対に、何があっても、どんなに先輩の微笑む顔が綺麗でも。

清々しいくらいに、お付き合いを断ってやるんだからっ……‼


あたしは雪辱を晴らすべく決意して、がに股で西門へと歩む。


すると、


ーーーすっ、と。




誰かと思えば、ナポレオンがあたしの右隣を颯爽と横切る。


「じゃあな、緋奈子」


ナポレオンは食堂でのことなどすっかり忘れたかのように、あたしに手を振る。


「ばいばい……」


ナポレオン……お昼のことホントに忘れてるんだ。

それとも気を遣ってくれてるのかな。

だとしたら、なんだか悪い気がする。


「……ねえ、ちょっと待って」


そこで、あたしはナポレオンを呼び止めた。


「ん?」


振り返ったナポレオンに、あたしはこんな事を聞く。


「あの、あのさ」

「どうした?」

「お昼のこと、気遣ってくれなくてもいいよ?
あたし、全然気にしてないし、むしろ手助けしようとしてくれたのには感謝してるから。
あの先輩には、ちゃんと相応のやりかえしをするし……」

「ーーーやり返し、ねえ」


ナポレオンは顎に手を当てる。

なにか腹に一物あるような顔と物言いだ。


「どうしたの?」

「やり返し、と言ったが……。
なぜお前がやり返すのだ?

お前があの男にそんな風にしか思われていなかったのは、そのお前自身が、恋人として付き合うに値する女になれなかったからではないのか?」







ーーーナポレオンに言われて、あたしは一瞬固まった。