あたしの初恋相手は、まるでケータイ小説に出てくるような人。

しかも、まるでケータイ小説のような展開。

たしかに、小説より奇、かもしれない。





だけど。






少女漫画の主人公のような立場におかれたあたしが、舞い上がりながらそう思っていた……その矢先。






「あの新入生、絶対に俺に惚れてるぜ。

まあ、ちょうど溜まってたし、遊び相手くらいにはなるんじゃねぇかな?」






ーーー神山先輩が、そんなことを口走った。





「あははっ、ひっどーい。
あんな純情っぽい子に手ェ出すなんて」


「いいじゃん、向こうだって気がありそうなんだし。
スタイルもなかなかだし、遊び相手としては上玉だろ?
今日の放課後、呼び止めて告ってみようかな、って思ってさ」


「ああ、いつもの『告って遊んで別れる』手法?」


「そうそう。
あいつ、西門から出入りするところ見るし、見つけたら実行するわ」



「もお、かわいそうー」



先輩たちは、そんな話を弾ませて食事をしている。



……そういうことか。


しばらく呆然と、そして熱かった身体が冷めて行く感じがして……あたしはよくわかった。


先輩はあたしに好意をもってたわけじゃない。

あたしを“玩具”としてしか、見てなかったんだ……。

あたしは強く強く拳を握りしめ、目の前にその新入生がいるなんて夢にも思っていない先輩たちのほうに背を向けたまま、肩を震わす。


……よくも、ぬか喜びさせてくれたわね。


なにが上玉?



女遊びの好きなイケメンなんて、むしろいちばん嫌いなタイプよっ‼


あたしは悔しさなのか怒りなのか、とにかく悲しみ以外の、焰のような感情を燃え立たせる。



あたしの目の前では、ナポレオンが他人のような顔をして他所を見つめている。


まるであたしに関わりたくない、とばかりに。



まあ、そうよね。


あれだけ自信満々だったのに、こうもものの見事にぶち壊しにされて。


気高いナポレオンのことだし、きっと気まずくて仕方がないのだろう。


でも、悪いのはナポレオンじゃない。


むしろ悪者なんていないんだ。


ただ神山先輩のしようとしてることが、あたしをここまで怒らせた、それだけのこと。







……望むところ。




放課後にあたしに告白しにくるってんなら、受けて立ってあげる。


でもって、浮き足立ってる先輩を、思い切り振ってやる。