なるほどこうして考えると、ナポレオンが大軍人にまで登りつめた理由もわかる気がする。
「で、陸は?
相変わらず告白の嵐なの?」
「ああー……。
入学式から数日で15人くらいいったかもな?」
神山先輩は女の先輩の問いに、さらりと水に流すように答える。
「でもさぁ、微妙なのしかいねぇんだよなあ。
メイクは濃いわ、髪色が目にしみるわ、なんか……濃すぎ」
神山先輩の口調はどんよりとしていて、ザ・悪口ってかんじ。
というか、すでにそんだけの女の子たちが言いよってるなんて……あたしの想像よりもはるかにすごい。
あたしは神山先輩のモテっぷりに唖然とする。
その時。
「あー、けど。
なんか良いのは見つけたかもな」
先輩がそんなことを口にした。
「まじで?ちょっと、誰それ」
男の先輩のひとりが声を高くする。
……やっぱり、そううまくはいかないか。
まあそうだよね。
あれだけ恰好いい先輩なわけだし、新入生の中にも可愛い子は山ほどいる。
あたしでは「無理がある」ってやつだったんだ。
そして、神山先輩は悠々として、そのことについて語りはじめた。
「こないだ見つけたんだけどさ。
黒髪でサイド結びしてる新入生」
「いたっけ、そんなの」
「文学部にいたんだよ。
確か名前はーーー
……曽根 緋奈子、だったかな」
……ほい?
いま、あたしの名前呼んだ?
「へえ、そんな子いたんだ」
「ああ。
けっこう顔も良いし、他の女よりは俄然いいほう」
先輩たちはそんなことを話している。
嘘でしょ……?
手の甲をつねってみたけど、夢じゃない。
あたしが、先輩の目にばっちり留まってたなんて。
しかもこのタイミングで……。
前をみて見れば、ナポレオンが頬杖を付き、あたしに誇らしげに微笑みかけている。
「人生とは小説より奇なり、だぞ?」
ナポレオンはそう囁く。


