流石は、戦に積極的な男なだけあって、ナポレオンは戦関連の諺を自慢げに使う。
「それは、そうよね」
あたしはおもむろにうなづき、先ほどのお下劣な会話を忘れて、弁当箱に手を伸ばす。
「なんだ緋奈子よ、やけに茶色が多いな」
「ゴボウとミンチの炒め物よ」
「それと、白米とプチトマトだけか。
そんな簡素な弁当では、我が輩のことを言えぬではないかよ」
「いや、クレープだけよりはましかと思うんだけども」
柔らかく薄いクレープ生地を口に運ぶナポレオンに言い放ち、あたしはミニトマトを頬張り、咀嚼する。
「それに、もっと別のもの食べたいとは思わないの?
肉とか野菜とか」
一応、皇帝まで登りつめたわけなんだし、貴族とお茶会に出たことだってあるだろうし、そういう欲があったっておかしくはないと思う。
けれど。
「別に。
ああ、まあ強いて言うなら鶏肉のマレンゴ風(当時の庶民料理)は好きだった。
あとは特にないな。
我が輩には、野戦食がいちばんしっくりくる。
結論として、食い物はカロリーになればなんでもいいのさ。
兵士が飢え死にしなければ」
ナポレオンは淡々とした目で、クレープを食みながら言った。
この人、軍事以外に関しては物凄い無頓着だ!
たぶんフランスの煌びやかな貴族たちと比べると、かなりズレてる。
でも、旨いものを何時間もかけてゆるゆると食べてた貴族よりは、そういうほうがいいかもしれない。
……クレープしか食べないのは別にして。


