「……男はだいたい、そんなものだ」
あたかもそれが正当なことのようにナポレオンはぼやく。
そりゃあ、あんたはDT卒(童貞卒業の略)してるから、恋愛なんて既にいくらか経験済みだろうね。
けどあたしは……今回が初恋。
なにをすれば振り向いてもらえるか、とか、どうしたらいいのかなんて、わからない。
「そんなものねえ」
あたしは怪しむように呻く。
「覚えてもらえないのなら、覚えてもらえばよかろう」
ナポレオンは簡単なことのように言った。
確かにナポレオンくらい熱烈なアピールしたら、記憶には残るかもしれない。
けど、鬱陶しく思われそうじゃない。
そんだけやったら。
「どうしよっかなあ……」
「そんなに悩むことか?」
迷いなく膨大な迷惑ラブレターを妻に送りつけたナポレオンにだけは、言われたくないセリフだ。
「そんなに躊躇するのは、あの男に関する情報が少ないからか?」
「なんでそう思うの?」
「戦も恋も、なにごとも、うまく行くようにするには相手を知ることが重要ではないか」
ナポレオンは人差し指を立てる。
確かに、間違ったことではない。
むしろナポレオンのほうがよく知っている。
「そりゃあ……そうよ、ね」
「なんなら我が輩も手助けをしようか?」
「……は?」
あたしは素っ頓狂な声をあげた。
あいつは性格悪いぞ、みたいなことを言ってたくせに、ナポレオンはあたしに協力するようだ。
「いやいや、なにいってんの?」
「我が輩も、お前の色事に手を貸してやる、と言っておるのだ。
悪い話ではなかろう?
“この我が輩”が、協力してやると言っておるのだから、ありがたく思えよ」
「いや、別に頼んでないし……手を貸してもらわなくても大丈夫よ?」
「なんだその邪魔そうな言い方。
我が輩を誰だと思っておるのだ」
「真田大学1年生の御堂 暁くん」
「だ、か、ら。
かの英雄、ナポレオン・ボナパルトだってば」
ナポレオンは英雄にこだわっている。
や、協力してくれるのは嬉しいよ?
でも、意気込んでるナポレオンを見てると、なんだか例の“迷惑ラブレター”が思い浮かんでしまう。
だから、あまり気乗りはしない。