「なんだか気持ち悪い顔をしておるな」


三限目が終わった教室の端の席で、あたしの隣から、例の軍人が呆れた顔をして言う。


……って、いつからそこにいた⁉


ナポレオンは隣で頬杖をつき、白い目であたしを見ている。


「き、気持ち悪いってなによ」

「にやけてて、頬染めなんかして、恍惚とした顔だなと言っている。
緋奈子らしくない、というものだな」

「あたしらしくないって、なにそれ」


失礼である。

自分が男だったらまだしも、女なら好みの男性を思い浮かべて恍惚とするのはよくあることだ。



「というか、そういうあんたこそ、結婚当初はジョセフィーヌさんに膨大な手紙送ったらしいじゃん。
それと似たようなものよ」

「おい緋奈子よ。
お前、そのような話をどこで仕入れた?」

「ナポレオンって言えば高校生でも知ってるわよ。
それにネットで調べれば、いくらでもアンタの恥ずかしい逸話だって出てくるんだから」

「緋奈子よ……お前の脳内には“プライバシーの侵害”たるものがないのか?」

「いや、プライバシーもなにも、あんた死んでるじゃん」


そう言ってやると、ナポレオンは悔しげに眉をしかめながらも黙りこくった。ら


『いつか必ず、やり返してやる』


とばかりの貌。