「まあ、あれだ。
“お隣のよしみ”という付き合いにもなるだろうし、困ったことがあれば相談にのるぞ」
ナポレオンはすっかり調子に乗ったのか、あたかも先輩を気取ったようである。
(一応、彼は何百歳も上の先輩なのだが)
歴史上でもけっこう悪さした、って話聞くけど……意外といい人じゃん。
生まれ変わって改悛したとか。
案外、すごく頼れるお隣さんになったりして。
「うん。
じゃああたしも、助けがいる時には頼ってね?」
「わかった」
ナポレオンは快諾して、そっと手を差し出した。
握手、ということらしい。
僅かに青春の風が吹きはじめたようだ。
あたしも眩い眼差しでその手を握ろうとする。
その時。
「あ、鋼太郎」
鋼太郎が後ろから出てきて、じっとナポレオンを見つめた。
ーーハッ、ハッ、ハッ、と。
舌を出して人を見上げる鋼太郎も、やっぱり可愛い。
……が。
眼前にいるナポレオンは、なぜか鋼太郎を見下ろしたまま、さっと青褪めた。
「フォ、フォルチュネ…………」
ナポレオンは真っ青になって呟いた。
彼の顔を彩っているのは、明らかに恐怖らしきもの。
ナポレオンは咄嗟に、差し伸べていた手を背中に隠した。
「……ちょ、ちょっと帰る……」
「どうしたの?」
「どうでもよかろう!
パグを飼っているなら早く言ってくれ!
もーやだ、我が輩かえるぅ!」
態度を急変させ、ナポレオンは幼稚園児のように小さく声をあげると、尻尾を巻いて自分の部屋へと退散した。
……なんだ今の……。
相談にのるぞ、って?
あんた、相談に乗るどころか、人の話も聞かないで部屋に逃げこんだよ?
有言実行できてないじゃん。
「……もうっ、わけわかんない。
いこ、鋼太郎」
あたしは鋼太郎を抱きかかえ、そそくさと自分の部屋へと戻って行った。


