講義開始から30分くらい経過した頃、ナポレオンが急に小声で、あたしに声をかけてきた。
「……緋奈子、緋奈子」
「なに」
「思わぬか。この講義の用語を見て」
「だから、なに」
「母音と子音、とよく言うが……。
母音(ボイン)というと、
なんだか、そそらないか?」
ーーー中坊か‼
あたしはナポレオンの卑猥な発言に、開いた口が塞がらなくなる。
そんなこと、高校生でさえあまり言うものはいない。
「なあ、緋奈子よ。
そうは思わぬか?思うだろう」
「昔は思ったけど、今さら思わないよ」
「なんだ、そうなのか」
つまらん、とばかりにため息をつき、ナポレオンは再び板書に移る。
いや……つまらん下ネタを言い出したのはアンタではないか。
あたしは呆然としつつ、瞬く間に文字で埋め尽くされた黒板をルーズリーフに写して行く。
落ち着きがないのか、やれば出来る人なのか。
ナポレオンはよく分からない。


