「ここに来る前に、一度東京の実家に帰ってさ、ジュエリーショップを何店も見て回ったんだけど…
どうしても、これ以上に君に相応しいと思える指輪が見つからなかった。
だから婚約指輪はこれにしたい。
お金を掛けなくて申し訳ないけど、我が儘(ワガママ)言わせて…
その代わり、結婚指輪は張り込むから。
今度一緒に札幌にでも見に行って、君の好きなデザインの…」
「結婚指輪はいらないよ。
私、これ以外の指輪は、はめないから」
「けど…」
「これがいいの。これだけでいいの。
紫水晶の指輪は、私にとっても特別な指輪だから…」
「そっか…分かった。
そう言って貰えると俺も嬉しい」
箱の中の紫水晶の指輪を、流星の綺麗な指先が摘み上げる。
「紫、左手出して…」
彼の目の前に左手を出す。
冷たく滑らかな金色のリングが、私の薬指を通って、行き止まりでピタリと落ち着いた。
「サイズ直してくれたの?」
「いや、磨いて貰っただけでそのままだよ。
今の君のサイズが分からないからね。
直してないのにピッタリだね…不思議だ。
まるでその指輪が、君の指にはめられる事を分かっていたみたいだ…」
再会の約束に幼い日にこの指輪を預かり、ずっとチェーンに通して首に下げてきた。
子供の頃、何度か指にはめてみた事はあったけど、
その時は子供の指だし、落ちちゃう位に大きかったのを覚えている。
いつの間にか私の指は、この指輪のサイズにピッタリに成長していた。
流星が言った様に、指輪が私の指のサイズに合わせてくれたとは思わないけど、ピッタリである事は凄く嬉しかった。
この指輪は、流星の亡くなったお母さんの指輪。
彼を産んでくれた人と、同じ指のサイズである事が嬉しくて…心がほこほこと温かくなる。
左手の薬指に光る紫水晶の指輪を、ラベンダー畑の淡いライトの方へかざしてみる。


