「ハハッ 鈍さと、その端的な反応は、今も変わらないね。
綺麗なのは君だよ。
見惚れて、言葉を失っていた…
“本物の美に出逢う時、人は美の概念が崩壊する音を聴く”
まさにパラドックスみたいだ…」
「え…聞いた事ないけど誰の言葉?ゲーテ?」
「違うよ、今浮かんだ俺の言葉。
今まで美しいと感動を覚えた物は、一体何だったのだろう…そんな気にさせられる。
君の成長に、想像が追いついていなかった。
艶やかな黒髪…黒曜石の瞳…いやそれ以上の…言葉では形容しがたい美しさ。
紺碧の空に瞬く星々も、華やかに香る花達も、君の前では色褪(ア)せ、霞んでしまうことだろう。
美と愛の女神アフロディーテさえ、君の美しさに嫉妬を抱くに違いない」
常日頃、青空には色気が足りないと馬鹿にされ、大樹にはババアだと言われ…
そんな私にとって久しぶりに聞く、流星のストレートで哲学的で、どこか詩的な褒め言葉は、
少女の頃の様なときめきを与え、頬が赤くなるのを感じた。
恥ずかしくなり俯いた。
そんな私の反応を楽しむ流星は、クスリと笑いながら優しい声で呼び掛ける。
「紫…」
名前を呼ばるのも久しぶり…それもまた嬉しくて、胸が熱くなる。
「紫…」
二度目の呼び掛けに真っ赤な顔のまま、俯いていた顔をそろそろと上げた。
「紫…長い間、待ってくれてありがとう…
馬鹿な俺は、君を徒(イタズラ)に傷付け、苦しめただけだった…」
彼の瞳の中に、後悔の色が滲む。
それを見て慌てて首を横に振り、彼の右手を両手で握り締めた。
「馬鹿なんかじゃない。いたずらでもない。
あの時の流星が真剣に悩んで出した結論を、馬鹿なんて思わないよ。
私の為にって…流星はいつもそうして考えてくれる。
その気持ちは素直に嬉しいと思う。
でもね、私だって流星の為に生きたいよ。
何も知らず、守られるだけの生き方なんて望まない。
傷付いても苦しくてもいい。傍にいたい」
「…紫…ありがとう…」
流星の深い吐息を、ラベンダーの香りを含む優しい夜風が流して行った。


