大切な傷跡を見て、笑みを浮かべる私。
そんな私の視線の先に気付き、流星は想い出の中から意識を戻して、自分の傷跡に指を触れた。
それに頷くと、彼は堪らないと言った表情で目を閉じ、込み上げる想いを鎮めようとしている。
伏せられた長い睫毛が、微かに震えていた。
溢れ出しそうな感情に堪え、形のいい唇を引き結ぶ。
数秒じっとして、やがてその唇が薄く開いた。
晩夏の風の中に、適切な言葉を探しているみたい…
彼の仕草の一つ一つに私の心は熱くなる。
胸の中には4年分の伝えたい言葉達が、山となり積み重なっていた筈なのに…
目を伏せ感情の高ぶりを鎮め様としている彼が余りにも美しいから、一欠片(カケラ)の言葉さえ浮かんでこない。
言葉を無くしているのは流星も同じだった。
やっと瞳を開いても、薄く開いた唇からは、音にならない吐息しか出てこない。
無言の二人の間を、優しく香る涼やかな風が吹き抜ける。
ラベンダーの花穂が青紫色に波打ち続ける。
星はもう流れてくれなかった。
けれど夜空に輝く幾万の星達は、西の地平線へ向け、見えない移動を続けており、
カメラを向ければ、写真の中に、光の弧を描くであろう。
幼いあの夏の少年に贈った、メッセージカードと同じように……
風になびく黒髪が、時折顔の前にきて、視界を邪魔する。
その度に髪を後ろに流し、耳に掛けた。
すると無言の間を保ち続けていた流星の唇から、やっと一言、言葉がこぼれた。
「綺麗だ…」
思わず後ろを振り返る。
青く揺れるラベンダー畑は流星の後ろにあって、私の後ろにはない。
私の後ろには南に自宅、北に店舗と駐車場、
真後ろには何もない草地と砂利道。
綺麗な物は全部、流星の背後にあるのに…
「何が?」
そう聞き返すと、流星が「ブハッ」と吹き出した。


