その理由の一つは、
この季節に間に合わなかったと諦めていた所での、突然の帰りに、ただ単純に驚いていたから。
もう一つは、
彼のシルエットが入ることで、急に神秘的に美しさを増した、目の前の風景に魅入ってしまったから。
そして最後の一つは
余りにも美し過ぎて、私の願望が作り上げた幻なのではないかと…
さっき白樺並木に見た初恋の姿の様に、
カメラを下ろした瞬間に、切望していた人影も消えてしまうのではないかと…
そんな気持ちになり、指一本動かすことが出来ず、
ファインダー越しに、幻の様に美しい光景を見続けるしかなかった。
私の方へ顔を向けたまま、じっと動かなかった彼が、ゆっくりと歩み出し丘の斜面を下ってくる。
真っすぐに私に向かい、歩を進める彼。
丘の中腹に差し掛かる頃、
青灰色だった人影に徐々に色が付き始め、
風に揺れる茶色の綺麗な髪が見てとれた。
丘を下り、私まで数メートルの距離になった所で、表情が見える様になった。
綺麗な茶色の瞳が、私を真っすぐに捕らえていた。
4年前より顔も体のラインもしっかりして、大人の男性になった彼。
けれど繊細な美しさはそのままで、神話の世界から現れたのかと思う位だ。
近づく彼の姿が、フレームの中で大きくなっていく。
青みを帯びる茶色の瞳と、レンズ越しに見つめ合う。
彼が口の両端を少し上げて微笑むと、その美しさに不釣り合いな可愛らしい笑窪が右頬に出来た。
4年振りの愛しい顔を、ずっとこのまま見ていたかった。
けれどやがてフレーム内は、彼の着ている長袖のボタンシャツで白く埋まってしまう。
急に手元が重くなり、カメラを下におろされた。
手が小刻みに震えているのは、長時間カメラを構えていた為か、それとも…
震える左手から、カメラが離れ草地に転がった。
大切なカメラ…
でもそれを気にしている余裕は、今の私には無かった。
「…流…星……」
ファインダー越しじゃなくても、彼は消えたりしなかった。
目の前には確かに流星が居て、私を静かに見つめている。


