カシャリ…
シャッターを切り、ゆっくりカメラを下ろす。
すると目の前にあるのは、ただ青い光りを受けるだけの白樺の木。
ファインダー越しに見えた温かな初恋の姿は、消え失せていた。
淋しい気持ちになり、かつての温もりを求め、白樺の木に歩み寄った。
そっと木肌に触れる。
サワサワと、頭上で木の葉が擦れ合う音がする。
樹皮を一撫でしてからラベンダー畑の方に目を遣った。
誰も居ない青紫色の海は夜風に花穂が揺れ、
サワサワ…ザワザワ…とさざめいている。
気の早い秋の虫達が、そこかしこで鳴いている。
夜の富良野は、昼間と違う音で満ちている。
数種類の虫の音、風の音、それに揺すられる草木やラベンダーの葉の擦れ合う音。
耳を澄ませば大樹の畑の方から、蛙の鳴き声も聴こえてくる。
夏の夜の音色に耳を傾けながら、空を見上げた。
遮る物のない無限の広がりを見せる濃い夜空。
天上には今宵も沢山の星が瞬き、幾つもの星座の物語を描き賑やかだった。
流星の星、アンタレスも、南の空高く美しく輝いている。
夜の賑わいとでも呼んでいいだろうか、
静かな中に響く自然の音色と、満天の星達のさざめきが、淋しく思う心に沁みてそっと慰めてくれる。
淋しくても、前を向いて生きている。
流星は必ず帰ってくると信じている。
もう少し…あと少し……
彼を信じ、待っていればいい。
白樺の幹から手を離し、ラベンダー畑の方へ数歩進んだ。
再びカメラを構える。
私の立ち位置から、緩やかに上り傾斜をつけるラベンダーの丘。
それは青く淡く光り、まるで星明かりに照らされ、光っている様に見えた。
このラベンダー畑と、壮大な星空を、写真の中に納めたい。


