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リビングの時計を見ると、0時近くなっていた。
そろそろいい頃かと思い、カーテンを少し開け、外を確認する。
店の広い駐車場に、さっきまで止められていた数台の車は消え、
ライトアップ中のラベンダー畑の方にも、人影は見当たらない。
夜のラベンダー畑を遅い時間に見に来る人は、大抵は恋人達。
恋人達の時間を邪魔したくないし、彼らを見ていると、私も今は…切なくなってしまう。
観光客が宿に帰り眠りに就くこの時間まで、
眠気に目を擦りながらも、一人リビングで待っていた。
窓から見える範囲で誰もいない事を確認し、カメラを持って玄関に向かう。
これは一年前に購入した一眼レフカメラで“CANON EOS-××”25万8千円の品だ。
かつて柏寮でも愛用していた先代のカメラは、ついに壊れてしまった。
愛着あるカメラと別れるのは残念だが仕方ない。
諦めて新しいカメラを購入した。
最初は思う様に撮れなくて、このカメラと何度も喧嘩したけど、
最近やっと手に馴染んだと感じる様になり、
今は私の良き相棒として活躍してくれている。
両親の寝室は一階にある為、物音に気をつけながら玄関を出た。
外に出て最初に感じるのは、夜風の心地好さ。
まだ乾ききっていないお風呂上がりの黒髪を、夜風がさらい、乾かしてくれる。
ひんやりと冷たいその風は、半袖ワンピースから露出した肌の熱を奪っていく。
富良野は最高気温30度を超す真夏日であっても、夜は涼しい。
昼夜の気温差が激しいので、夜のラベンダーを見たいと言う観光客には、一枚上に羽織って出かける事をお勧めしている。
お客さんにはそう言うけれど、私にはこれくらいの涼しさは心地好くて、寒いと感じない。
この地で生まれ育つと、他の地域の人より、寒さ耐性が高くなるのかも知れない。


