窓硝子の縁には、霜が張り付いている。
一つとして同じ形の無い雪の結晶達がレースの様に繋がり合い、硝子を華麗に縁取り、美しかった。
その自然美を感じる窓硝子から外を見ると、意外と明るい事に気付いた。
今は真夜中、勿論陽光はなく外灯もないのだが、雪明かりで、室内よりも外の方が明るく見えた。
仄かな月明かりを反射して、青白く淡く光る雪の中の田舎町。
窓辺から数歩下がると、
窓霜に縁取られた硝子の中にその景色が収まり、
一枚の美しい風景画の様にも見えた。
通りを吹き抜ける風が、時折窓硝子を控え目に揺する。
その風に吹き上げられ、積もっていた粉雪が遊ぶ様に舞い踊る。
暫くその景色を観賞し、それから食卓のいつもの自分の椅子を引いて座った。
すると目の前のテーブル上に、我妻さんのノートパソコンが閉じられた状態で置かれている事に気付いた。
いつも書斎に置いてある彼のパソコンが……
何故とは思わなかった。
わざわざこうする意味はただ一つ。
こうして俺が眠れずにリビングに下りて来る事を予想し、
「見てごらん」と言いたいのだろうから。
暗闇の中で電源を入れると、白い光りが眩しく目を細めた。
目が慣れるのを待ち、メールの送信欄を開く。
予想通りそこには、眠りに就く前に彼が紫に送信したメールが保存されていた。
『写真に込めたおじさんのメッセージを、君はちゃんと受け取ってくれたみたいで安心したよ。
大樹君は無事に着いたから心配しないでね。
帰りも空港まで送って行くから大丈夫だよ。
後は文学少年がどう行動するのか……僕は暫く見守っていようと思う』
我妻さんは…大樹と一緒にすぐ帰れとは言わないんだな…
彼はいつもそうだった。
決して押し付ける様な事を言わない。
いつだって俺の考えを尊重し、力ずくで間違いを正そうとしない人だ。
こうして大樹が迎えに来ても、俺が自分の考えで決断するのを待つ姿勢は崩さでいてくれる様だ。
その事に少し安心していた。
この地でやりたい事を、一つ残しているから……


