「いえ、不様な姿を見せたのは恥ずかしいですが…後で説明するより、聞いてくれた方が大樹を理解し易いと思うので、良かったです。
それはいいのですが、一つ聞きたい事が…」
「何だい?」
我妻さんは湿布の端を白いテープで止め終えると、
「闘ったって感じがするなぁ〜」
と満足げに頷いていた
闘いではなく、殴られただけなのだが……
大袈裟な手当てをされた理由は、闘い後の勲章と言うべき男の美学を作りたかった為なのかも知れない。
「やっぱり我妻さんですよね?紫が俺の居場所に気付いた原因。
どうしても、あなた以外に考えられない…
大樹がロシアに入国するのに必要な、手続きや準備期間を考慮して推測すると、
『紫へのクリスマスプレゼント』と称して送信した、一週間前のあなたのメールが引っ掛かる。
今思えば、あの時の我妻さんは、いつもと少し違っていた。
何かを決意した風にも見えた。
メールの文章や写真からは、俺には何も感じられなかったが…
紫にしか分からない仕掛けでもしてあったのですか?」
「あちゃ〜そこまでバレちゃってたのか〜」
そう言いながらも、罰の悪そうな素振りはなく、
薬箱の蓋をパタンと閉めた彼は、ゆるりと胡座を組み直し、優しく微笑んだ。
「君の推測通りさ。
あの時撮った写真に、君の痕跡を忍ばせておいた。
テーブルクロスに映る影の中に“それ”の影も微かに映ってたんだ」
我妻さんが『それ』と指差すのは、俺の首から下がる紫水晶の指輪。
そうか…紫色の影か…
気付かなかったな……
シルバーチェーンのネックレスを首から外し、指輪を手の平に乗せた。
その手を少し持ち上げ、頼りない玄関ライトの光りにかざしてみる。
こんなに弱い光りの中でも紫水晶は光りを集め、手の平にぼやけた紫色の影を映していた。


