座ったまま、玄関の天井に吊されたランプシェードを見上げていた。
チューリップ型の片手大のランプは、弱々しい黄色い光で玄関フロアを照らしている。
隅々まで届かず、寒々しいフロアの輪郭がぼやけてしまう程度のその光。
しかし、今日は随分と温かく頼もしく見える。
胸に支(ツカ)えていた重苦しい固まりを、吐息と共に一気に吐き出すと、
体の緊張も、ガチガチに固まっていた頑なな心も、次第に緩んで解放されて行くのを感じた。
リビングドアの開く音がして視線を廊下奥に向ける。
口元に笑みを浮かべた我妻さんが歩いて来る。
彼が手にしていたのは薬箱。
俺の側まで来るとしゃがみ込んで言う。
「リュウ、もう乾いてるみたいだけど、一応消毒しておこうか」
大樹に殴られ傷ついたのは、口の中と口の端。
屋外で転倒して出来た傷なら念入りに消毒したい所だが、この程度なら雑菌類による感染を心配する必要はない。
だが折角持ってきてくれたので、口の端に薬を塗ってもらった。
大きな薬箱に消毒液と塗り薬をしまいながら、彼は物足りないと言った風に、口をへの字に曲げて見せた。
物足りなさとは、きっと手当てし足りないと言う意味なのだろう。
くすぐったさを感じるくらいに俺の顔に視線をさ迷わせ、新たな傷はないかと探しているみたいに見えた。
「あー…頬っぺたが若干腫れてるなぁ。湿布も貼っておこう」
腫れも大した事ないのだが、彼が取り出したのは手の平大の大きな湿布。
されるがままに大きな湿布を貼られ、冷感とメンソールの香りを感じながら彼に問う。
「我妻さん…全て聞いてましたね?」
「あ〜バレてた?
そりゃ僕も気になるからさ…すまないね」


