『紫が変に思い詰めて…だから俺が代わりに……』
先程大樹はそう言った。
無用の傷ではなく、必要な傷だったと言うのか…?
変に思い詰めたって…具体的にどう言う事だ?
いや…今はそこに引っ掛かっている場合じゃない。
大樹からそれを聞かされた紫はどうなったのか、まずそれを聞かなければ……
しかし、俺が問い掛ける前に、彼は勝手に話しを切り上げ様とする。
「いつまで間抜け面さらしてやがる。立てよ。
腹減ったし何か食わせろ。
熱い風呂もな。
何だよこの国、富良野より寒いじゃねーか」
ブツブツと文句をつけながら、大樹は玄関に転がっていたスポーツバックを手に取った。
彼の荷物は機内持ち込み出来そうなサイズの、そのスポーツバック一つだけ。
こいつは海外にそんなにも少ない荷物で来たのかと、その事にも驚かされ、また注意が逸らされる。
その隙にバックを肩に担いだ大樹は俺の横を素通りし、
リビングドアの明かりに向け、ズンズンと進んで行ってしまった。
一番気掛かりな紫の反応については、まだ何も聞いていないと言うのに…
驚き呆気に取られる事が多過ぎて、未だに立ち上がる事も出来ない俺は、その背に向け、慌てて声を張り上げた。
「大樹待って!
紫は…紫は大丈夫なのか!?」
上擦った自分の声が廊下に反響し、別人の様に聴こえた。
廊下を真っすぐ進んだ先のリビングドアに到達していた彼は、ドアノブに手を掛けたまま肩越しに振り返った。
「あ゙?大丈夫って何がだよ。
言っただろ?紫は弱くねぇって」
「…泣いたり……」
「ああ、初めはわんわん泣いたな。
けど、すぐにいつもの顔して笑ったぞ?
それがあいつの強さだろ。
いつまでも、てめぇみてぇにいじけてねーよ。
今はちゃんと気の強い、いつもの目して前を見てる」
「………」


