俺を説得し、全てを打ち明ける覚悟をさせてから、彼女の前に連れて行こうとしていたのか。
どうにも腑に落ちなかった大樹が一人で来た理由。
それを理解できたつもりになったが、そうではないと気付く事になる。
胡座(アグラ)をかいた体勢のまま、大樹は俺の方に向き直った。
そして我妻さんでも変えられなかった俺の頑なな決意を、崩しに掛かる。
「分かれよ流星。
てめぇの頭ん中は間違いだらけだ。
お前は紫の事、何も分かってねぇ。
あいつは弱くねぇ。
てめぇの前ではか弱い女の振りしてたのかも知んねぇけどな、あいつは酷ぇぞ。
すぐ殴るし、俺がてめぇの悪口言ったら蹴り入れてきたしよ。
しかも昔から手加減がねぇ。
俺が勉強出来なかったのは、あいつにガキの頃から頭をボコられ続けたせいだ。
いいか、紫は弱くねぇと信じろ。見た目に騙されんな。
あいつの中身は、肝っ玉座ったババアだ。
弱い訳ねぇだろ」
俺の決意を崩そうと、本人は至極真面目に論じているが…
その彼らしい可笑しな言い回しに、思わず笑ってしまった。
『中身は肝っ玉座ったババア』
彼女を見てそんな風に表現出来るのは、大樹しかいないだろう。
酷評にも、二人の絆の深さを感じる……
「…君と紫の歴史を感じさせる言葉だね。…ハハッ…羨ましいな……
大樹…俺も紫を弱いとは思ってないよ。
苦しさに鎖していた心をこじ開けてくれたのは彼女だった…
俺と君が争い彼女の体の自由を奪ってしまった時も、『後悔するより前を向こう』と笑ってくれた…
中々言える台詞じゃないよな……
紫は強い。
けど…俺に関する事だけは別だ。
紫は俺の死に堪えられないよ。
彼女に命の期限は告げられない。
紫は笑顔を失ってしまう……」
俺の考え方が間違いだと、そう言ってくれる彼を、逆に説得したつもりだった。
大樹に向け悲しく笑い掛けると、酷く嫌そうな顔を返された。
紫は強い…
だが俺に関しては脆く弱い……
最後に紫を抱いた時に見た、震える華奢な体と涙を思い出す。
紫は俺の死に堪えられない。
それが変えられない認識。


