『これでいい』と納得していた生き方を、根底から覆される衝撃。
道標を見失い、深い森の中をさ迷う気分だった。
3年間、紫を苦しめてきた自分の愚かさに恐怖した。
だが…だからと言って彼女の前に立ち、辛い宣告を与える勇気も湧いてこない。
肌がゾクリと粟立ち、咄嗟に腕を摩る。
鳥肌が立つのは廊下の寒さのせいではなく、迷いの森で臆病風に吹かれてしまったからだろう。
しかしそんな俺を横目で見ていた大樹は、寒がっていると解釈した様だ。
身を縮める俺に、着ていたコートを脱いで投げて寄越す。
「いや…大丈夫だから…」
そう言って返そうとするが、
「いいから着てろ。
てめぇに風邪引かせたら、俺が紫に殴られる」
彼は強引に、コートを俺に羽織らせる。
随分と大人になった大樹。
そんな気遣いも出来る様になったのかと驚いていた。
俺の知る子供っぽい大樹とは違う。
その事に流れた月日の長さと、彼の内面の成長をしみじみ感じていた。
感心する俺の隣で大樹がポツリと呟いた。
「やっぱ、紫を置いてきて良かったな……」
「は…?」
てっきり彼女に頼まれて使者の役割を引き受けたと思っていたから驚いた。
「紫を置いてきて…」
と言う事は、初めは紫も一緒に来る予定だったのか…?
「良かった」とは一体……
不思議そうな視線を向ける俺に、大樹は呆れた様な顔を見せる。
「何か知んねーけど、あいつはてめぇの事をやたらいい男だと信じてっからよ……
やっぱ今は逢わせなくて正解だった」
「今は…?」
「ヘタレな考え方しか出来ねぇしみったれた野郎には、会わせられねぇって言ってんだよ。
3年待ってこんなフニャチン野郎が出て来たら、ガッカリさせんだろ。
俺がてめぇの頭ん中変えてやる。
紫に会わせんのはそれからだ」
そうか…大樹は俺を連れ戻しに来たのではなく、紫の為に説得しに来たのか……


