絞り出す様にやっと口にした言葉は
「何故…」と言う凡庸な言葉。
何故大樹がここに居る?
紫が大樹に頼んだのか?
紫が俺の居場所に気付いたのか?
我妻さんは俺の名前は出していないと言うのに何故気付いた?
何故ここの住所を突き止められた?
何故………
冷汗が背中を伝い、流れ落ちた。
頭の中は「何故」と、山ほど疑問が駆け巡る。
大量の疑問に加え、この状況も分からない。
驚き固まる俺に向け、大樹の後ろにいる警官が、大きな音で拍手し始めた。
その息子と思われる記者風の男は言葉に詰まる俺に向け、カメラのフラッシュを二度たいた。
人情味の厚そうな警官は円(ツブ)らな瞳を潤ませ
「うんうん」と一人頷くと、俺の両手を取り、大樹の両手と重ね合わせた。
ひんやりと冷たい大樹の指が、俺の手の甲に爪を立てる。
驚き過ぎて、まだ上手く言葉が出て来なかった。
目の前の大樹は口の端を上げ、ニヒルに笑っている。
大樹と手を重ねた…いや、手首を強く掴まれ、爪を立てられたまま数秒が経ち、
三度フラッシュがたかれ、カメラの方に顔を向けた。
動揺し過ぎて「撮らないで」との言葉が出てこない。
そんな俺に記者風の男はメモ帳を取り出し、笑顔で質問してきた。
「随分と驚いたみたいですね。弟さんとは20年振りだそうで。
再会された感想をぜひ一言!」
間違いだらけのその質問。
けれど口の中がやけに乾いて、それを否定する言葉さえ出て来ない。
ゴクリと無理矢理唾を飲み込み、漸(ヨウヤ)く出てきた言葉は…
「し…信じられない…」その一言だけ。
その後も矢継ぎ早に勘違いだらけの質問を浴びせられたが、
「ダー(Yes)」「ニェット(No)」しか言葉を返せなかった。


