ラベンダーと星空の約束

 


廊下に出るとそこは予想より寒く、夕食で上昇した体温が一気に下がった。



来訪者を家に入れた後玄関ドアはすぐに閉めらた筈だが、

短い時間に入り込んだ冷気が、かなり室温を下げてしまったみたいだ。



先程脱いだカーディガンを取りに戻るべきかと迷ったが、

「人違いだ」と一言いえば用は済むと思い直し、そのまま廊下を進んだ。




真っすぐな廊下の角を一つ曲がると、すぐに玄関に出る。



まず目に入ったのは、玄関先に立つ、大柄な2人のロシア人男性。



一人は特徴的な制服制帽を身につけている事から、一目で警察官だと分かる。



年齢は定年間近と言う頃か…

立派な体格と堅い職業に似合わず、穏和で人の善さそうな顔をしていた。




もう一人はカメラを片手にラフな格好をした、ルポライター風の若い男性。



親子程年齢の離れて見える2人は、背格好も顔も髪の色も良く似ているから、本当に親子かも知れない。




もちろん彼らと面識は無い。

それなのに2人は親しみを込めた視線を俺に向け、

何かを期待する様な…

早く秘密を暴露したいとでも言う様な…

そんなうずうずした笑みを口元に浮かべていた。




問題の日本人男性は…
と思い視線を移動させると、

大柄な彼らの後ろに隠れる様に目深にコートのフードを被る、男の断片が目に入った。



なぜ隠れるのかと不思議に思いながら、彼らの正面まで進み出た。



すると親子の様な2人のロシア人男性は、待ってましたとばかりに左右に別れ、

狭い玄関の壁に背を張り付け、中央に道を作った。



そこを通り、ゆっくりと俺の正面に歩み出たのは、未だフードを取らず顔を見せない日本人男性。




兄を捜して来たと言う彼に、人違いだと言おうと思い、口を開きかけたが…

その言葉は出てこなかった。

いや、言葉自体失ったと言った方が適切だろう。



言葉を失い……

彼の正体に気付いた瞬間、その場に凍り付いた。




コートのフードを片手でバサッと後ろに落とし、

俯いていた顔を徐(オモムロ)に上げると…

そこに居たのは有り得ない人物……





「よう流星…やっと見つけたぞ。もう逃がさねぇ」




そこには3年前より逞しく大人になった大樹がいて……

不敵な笑みを浮かべ、俺を見据えていた。




「………大樹……何故…………」