「そうか?
ワシには、悟りを開いた聖職者の様にも見えるがな」
「そんな出来た人間ではありません。
イワンさん、余り俺の事分かっていませんね」
「じーちゃんと呼べと言っとろうが。
リュウ、心を開いて見せてくれんと分からんよ。
3年一緒に居ても、ワシはお前さんの考えてる事が分からん。
ひょっとしてお前さんも、本当の自分の姿と言うもんが、見えていないんじゃないか?
お前とミチロウを足して二分割すれば調度いいかも知れんなあ。
なぁリュウ、人間と言う物は意外と自分を知らないもんだ。
他人に素顔をさらけ出して、ようやく自分が見えてくる。
もっと素直になれ。我が儘(ワガママ)になれ。
本当の自分を出さんと人生損するぞ?」
「…はい……」
イワンさんからこんな話しをされるとは思っていなかった。
当たり障りない日常会話ではなく、核心めいた深い話しをするのは、我妻さんの役目だと決めている風だったから。
それを今日は初めてイワンさんがしてくれた。
中々変われない俺を見て、彼の我妻さんに対する信頼が減った…と言う訳ではないと思うが……
その事を心配し、我妻さんの度重なる説得に応じられない事を、申し訳なく思った。
その後彼は
「シャワー浴びておいで。珈琲のお湯を沸かして待ってるぞ」
と言って、
皺の入った分厚い手で俺の肩をポンと叩き、キッチンへと消えて行った。
もっと素直に…我が儘に…
本当の自分を出せ…か……
人生70年を生きている彼の言葉は、重く心に響いた。
けれど、それは俺には難しい。
イワンさんの様に70年を生きれば、分かる様になるのかも知れないが…
残念ながら、残された人生はそんなに長くはない。
◇
その日の夕方、招かれざる客が、俺を捜して海の向こうの遠い地よりやってきた。


