不安に濡れる漆黒の瞳は、悲壮感漂う俺の顔を、水鏡の様に映し出す。
直視出来ずに目を閉じた。
その瞳もその涙も、見たくなかった。
苦しくて心臓が壊れてしまいそうだった。
彼女の怖れを受け止め切れず、何もかも甘美な刺激に溶かし、ごまかしてしまいたくなる。
静かに泣き続ける紫に覆いかぶさると、深く深く口づけた。
そのキスに、いつもの様な彼女の甘さを感じられない。
塩辛い涙の味……
悲しい末路を示す味……
それでも唇を離せなかった。
唇を離して目を開ければ、そこには涙を流す紫がいるから。
彼女を手放す決意をしなくてはならないから。
目を閉じたまま貪るように口内の隅々に舌を這わせ、音を立てて唇を吸い上げた。
逃げていても、悲しいだけなのに……
怯えていたら、失ってしまうのに……
それを俺は知っているのに……
―――――……
夢の中から意識が浮上し、真っ暗な自室で目を開けた。
もちろん隣に紫の姿はなく、羽根布団をかき抱く姿勢で寝ていた事に気付く。
時々こうやって、やけにリアルな淫夢を見てしまう。
理性の抑制がきかない夢の中では、彼女を求めてしまうのは仕方ない。
そう思い今日も諦めの溜息をついた。
仕方ないと割り切っても…
少々困った生理現象も起きてしまう。
布団から出て苦笑しながら、汚してしまった下着を取り替えた。
21にもなって夢精って…
まるで妄想盛りの、変声期の中学生みたいだ……
ベットランプを点けて時刻を確認すると、まだ5時前だった。
この家の家族の寝室は皆2階にある。
汚れた下着と着替えを手に、足音を忍ばせて部屋を出た。
シャワーを浴びるついでに下着も洗おうと思い、階段を下りる。


