柏寮の古いシングルベットの上、隣には愛しい紫……
心も体も満たされて、幸せの真っ只中にいる俺達。
温かな幸せを目を閉じて味わっていると、
小雨の降る「サーサー」と言う音が室内に聴こえ…変だと思い目を開けた。
するとそこは、見慣れた柏寮の自室ではなかった。
白い壁、白い天井、白いカーテン、白いベット…
何もかも白く温かみのない無機質な空間は、あの日の病院の個室。
窓の方に体を向けて、ベットに横になっていた。
この部屋のカーテンも開いているのに、空に浮かんでいた筈の大きな月の姿はなく、
曇り空から降る小雨は街を無情に濡らし、世界を暗い色合いに変えていた。
窓から目を逸らし反対側に体を向けると、隣にはまだ紫がいて…
その事にホッと胸を撫で下ろした。
紫が居る事に安心し頬を緩める俺、
しかし彼女は、不安気な表情で俺を見ていた。
「流星…雨の音が…嫌だ…」
いつか聞いた事のあるその台詞。
彼女は再びその言葉を口にして、心細そうに裸の体を擦り寄せる。
「大丈夫だよ。強い降りじゃない。すぐに止むさ」
滑らかな背中に腕を回し、そっと抱き寄せた。
艶やかな黒髪に鼻先を埋めると、仄かにラベンダーの香りを感じる。
暫くそうして抱き合っていたが、ふと胸元に雫を感じ…
驚いて彼女の顎に指を掛け顔を上げさせた。
紫は泣いていた。
震える瞳は露に濡れ…
見る見る内に溢れ出した涙が、目尻からこめかみへと流れ落ち…
黒髪をしっとり濡らして行った。
ゴクリと生唾を飲み込んだ。
あの日の様に
「何で泣く…?」
とは、もう聞けなかった。
『怖い…』
そう言われるのを分かっていたから。


