アナスタシアさんから依頼された、3冊のロシア語の書籍と新聞を抱え、
階段を上ろうとした所で、我妻さんに呼び止められる。
肩越しに振り返ると、ノートパソコンとカメラを持った彼は、意味ありげな笑顔を見せる。
「リュウ、日本はもうすぐクリスマスを迎えるね」
「…そうですね…」
「カメラ少女に、さっき写した画像を贈ろうと思うんだけど、どうだろう?」
さっき写した画像…
食卓テーブルに写る影を写した写真には、俺の姿は入っていないから問題はない。
俺の名前を出さないと言う約束を守ってくれるなら、何を送信するのも彼の自由だ。
「いいんじゃないですか?
きっと素敵なクリスマスプレゼントだって、紫なら喜びますよ。
今朝俺に見せてくれた、イルミネーションの写真も一緒に贈ったらどうですか?」
「そうだな、君が言うならそうするよ。
その方がクリスマスプレゼントらしく見えるしな」
珍しく「ワハハッ」と笑わず、書斎へと去って行く我妻さん。
去り際に数秒、力強い眼差しを俺にぶつけた。
いつも優しく陽気な我妻さんも、そんな顔を見せるのだと驚き、一瞬怯む。
怯んだせいか、
それとも、イワンさんが先程からカチカチとスイッチを弄っていたフロアランプにやっと光が灯り、
急に室内が明るくなった為か…
我妻さんの強い眼差しに浮かんだ、一瞬の作為的な光を、
この時の俺は見過ごしてしまった。


