ラベンダーと星空の約束

 


我妻さんと出会った時、紫の傍には勿論俺がいた。



写真展後のレストランで、3人で短い時間に沢山の話しをしたんだ。



我妻さん宛てのメールに、俺について触れる一文があってもおかしくはないのに…

俺の名前は一度も出て来なかった。




その事実に安堵していた。

俺の存在は、紫の中で過去の産物となったと捉えて…いいのかも知れない。




良かった……



紫はきっと、大樹と新しい関係を築いているはず。



俺がそうなる様に仕向けたんだ。



大樹はいい男だよ。

あいつは俺に無い物を沢山持っている。



彼と結ばれるのがいい…
それが正解なんだ……





我妻さんが彼女に送信した全メールもチェックさせて貰った。



ユーモラスな文面とロシアの街角の風景画像を送信するだけで、彼もまた俺の事には触れていない。



どうやら本当に俺の居場所は知られていない様だ。



それが分かって焦りは完全に消え、詰まりそうだった息がやっと普通に吸える様になった。



深い安堵の息を漏らす俺の肩に、カメラマンと言うよりスポーツマンの様な、我妻さんの力強い手が掛けられる。




「な?僕は君に関して何も彼女に言ってない。
それは分かって貰えたかな?」




「はい。けど…念の為、今俺を写した写真は、削除して貰えますか?」




「ワハハッ!僕の信用はどこへやら。

3年も寝食を共にしてるのに参ったなぁ〜。

安心しなよ、今写した写真は、テーブル上にある物達の影を写したんだ。

君の姿は入っていない」






彼は一眼レフカメラの液晶画面に今写した画像を表示して見せてくれた。



確かに彼が言う様に、そこには食卓テーブル上の品々と、

窓の下方数センチ程と、僅かな範囲の壁紙しか写っていなかった。



ピントはテーブルクロスに写る窓の格子の影。

ティーカップにスコーンの皿にジャムの瓶、

それとアナスタシアさんが俺に依頼して置いて行った本と新聞の影が、

白いテーブルクロスの表面に、面白い光と影の表情を付けていた。